前立腺の位置と機能
前立腺は膀胱のすぐ下で、尿道の周りにある栗の実ほどの大きさの臓器です。
前立腺の機能は未だ不明な点も多いのですが、精液の成分である前立腺液を分泌しています。
前立腺肥大症とは?
前立腺肥大症は内腺と呼ばれる内側の尿道に近い部分が肥大化する病気です。
詳しい原因は解っていませんが、50歳以上で増え、60歳台では5割以上、70歳台では約7割で罹患しているといわれています。
主な症状は、尿回数の増加、夜間に何度も排尿に行く、尿が出にくい、勢いがない、排尿に時間がかかる、きれが悪い、残尿感がある、我慢ができない、もらしてしまう、などです。さらに進行すると、尿閉(尿が出ない)、血尿、結石、細菌感染や腎機能障害をきたすこともあります。
経直腸超音波検査による前立腺サイズの比較。仰向けの断面像で写真の上方が腹側。
矢印内が前立腺。前立腺肥大症ではその形が丸く、断面積が大きくなっています。
前立腺肥大症の治療
症状の軽い初期段階には、主に薬物療法が行われます。
薬物療法で効果が不十分な場合、薬物治療が長期にわたる場合、重篤な合併症血尿や(細菌感染をくり返す、腎機能障害、尿閉など)が発生した場合には手術療法が選択されます。
今までの前立腺肥大症の手術は、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)と開腹手術が主流でした。経尿道的前立腺切除術(TUR-P)とは、内視鏡と電気メスを使用する手術法です。内視鏡を尿道から前立腺に挿入し先端の電気メスで肥大した腺腫(内腺)を少しずつ削り、その切片を回収して手術を終わります。肥大が大きくなりすぎて「TUR-Pでの治療は困難」と判断された場合には開腹手術が選択されていました。開腹手術では、下腹部をメスで切開し肥大した腺腫をくり抜いて(核出)きます。
低侵襲治療HoLEP~メスを使わないレーザー手術法
レーザー光を利用した治療は出血や痛みが少ないため、患者さんへの負担を少なくします。“HoLEP”という手術法は、内視鏡を尿道から前立腺に通し、レーザーファイバーと呼ばれる機器を前立腺の内側(内腺)と外側(外腺)の境目に挿入して行います。ホルミウムヤグレーザーという種類のレーザー光を照射し、肥大した内腺(腺腫)を外腺から切り離します(核出)。核出され膀胱内に移動した腺腫を別の機器で細切・吸引して摘出します。
HoLEPとTUR-Pの違い~イメージ比較
下図のようにHoLEPはみかんの実を皮からはがすように前立腺腺腫を核出します。一方、TUR-Pはみかんの実を直接切除していくため果汁(出血)が多くなります。
HoLEP治療の手順
4.核出した前立腺組織を体外に排出して後、モーセレーターを取り除き、尿路の確保や止血のために尿道カテーテル(管)を挿入して手術は終了です。
HoLEP治療のメリットは?
- メスを使用しない、身体に優しい
内視鏡を使用するためメスで腹部を切ることがありません。身体への負担が少なく、QOL(Quality of Life:生活の質)向上に貢献できる手術です。 - 高い安全性、少ない合併症
ホルミウムヤグレーザーは、水への吸収率が高いため、組織到達深度はわずか0.4mmです。また、レーザーファイバーの先端を組織から5.0mm離すと組織に影響を与えません。つまり尿道や膀胱内が水で満たされていれば、他の組織に影響を及ぼすことなく照射できます。2.0mm以下の距離で組織の切除が可能となり、同時に組織を焼くことで止血を行います。そのため出血が少なく切除痕の回復も早くなります。
図:各種レーザー、電気メスによる組織への熱侵襲の比較~ホルミウムレーザーは組織への熱侵襲を最小限に抑えられます。
従来の内視鏡手術(TUR-P)では、手術の際の出血や切除片を洗い流すために非電解質の灌流液を使用していました。この灌流液が体内に吸収されることで「低Na血症」という合併症を起こすことがあります。しかし、HoLEPでは血液・組織液と浸透圧の等しい生理食塩水を灌流液として使用するため「低Na血症」はほとんど起こりません。 - 痛みが少ない
HoLEPは、前立腺組織のうち血管が少ない外腺と内腺の境目を切除しますので、出血や術後の痛みが少ない手術です。そのため鎮痛剤の使用頻度も少なくなります。 - 入院期間が短い
上記1~3の理由で術後の尿道カテーテル(管)の留置期間も短くなり、結果的に入院期間の短縮というメリットも生まれます。 - 再発がほとんどない
HoLEPでは、肥大した前立腺組織(内腺/腺腫)を核出するため、残存組織が少なく、再発の可能性はほとんどありません。
HoLEPの治療費
HoLEPは経尿道的前立腺手術の一種でありTUR-Pと同様に健康保険が適用されます。手術費がTUR-Pとほぼ同額であるため、入院日数が短いHoLEPの方が従来のTUR-Pよりも安くなります。
前立腺疾患でお困りの方、HoLEP治療に興味のある方は当科にお問い合わせください。
(図・写真提供 ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社)