大腸は小腸と肛門をつなぐ腸管で、右下腹部から始まり時計回りに腹部を1周し肛門に至る全長約1.5~2mの管腔臓器です。大腸は、小腸で吸収された残りのものから、前半部分で水分や電解質を吸収して糞便をつくり、後半部分で蓄積、排便する働きをしています。大腸がんはこの大腸の粘膜から発生する悪性腫瘍です。
大腸がんは増加しています。
大腸癌増加の一因は食生活の欧米化であり、2015年の推計罹患数(大腸がんと診断される患者数)は約13.5万人で、日本のがんの罹患数では第1位とされる日本人が最もかかりやすいがんの1つです。
2014年の統計では日本人の男性で11人に1人、日本人の女性では14人に1人がかかるがんです。さらに大腸がんで亡くなる患者数(死亡数)の2015年の推計は約5万人で日本のがん死亡数では第2位です。大腸がんは罹患数、死亡数ともに増加しています。
大腸がんの発生
- 大腸がんの発生には2つのタイプがあります。
- 1つは腺腫という良性のポリープが大きくなる段階でがんに変化するタイプで、もう1つは正常な大腸粘膜から直接がんが発生するタイプです。
- 大腸にポリープを指摘された方は定期的に大腸検査を受けることが重要です。
大腸がんの発生部位
大腸がんは小腸に近い盲腸と中間の結腸と肛門に近い直腸に細分されます。結腸のなかで直腸に近い部分はS字状の形からS状結腸と呼ばれ、大腸がんの約1/3は直腸に発生し、約1/3はS状結腸に発生します。
つまり大腸がんは肛門に近い直腸やS状結腸にできやすいと言えます。
大腸がんの症状
出血(血便・下血)・腹痛・便通異常が大腸がん主症状とされますが、早期癌では無症状のことも多く、進行癌では出来る部位と大きさで症状が異なります。
一般的に右側大腸では管腔が大きく腸内容が液状であるため、症状がでにくく、がんが大きくなってしこりとして触れたり、がんからの出血による貧血、軽度の腹痛などの症状がでます。一方 左側大腸では管腔が狭く腸内容が固形化しているため腹痛を伴う通過障害や腸閉塞(イレウス)などや肛門に近い部分では血便や下血などの出血症状がでます。
大腸がんの検査
大腸がん検診では便潜血検査(便に混ざった血液を見つけ出す検査)が行われます。
大腸がん検診は40歳以上の男女に対して行われています。大腸がん検診は大腸がんによる死亡率減少効果が認められますが、受診率は2013年で男性41.4%、女性34.5%と低いのが現状です。便潜血検査による大腸がんの発見率は進行癌で約80%で、早期癌で60~75%であり必ず発見されるわけではありませんが、症状の項で説明したように早期大腸がんでは症状はありませんので早期発見には大腸がん検診の受診が重要です。
また大腸がん検診で便潜血陽性となった場合の精密検査の受診率も約55%と低いのが現状です。大腸がん検診で精密検査が必要な場合に精密検査を受けた場合の5年生存率は86%ですが精密検査を受けない場合の5年生存率は49%と悪化するデーターがあります。つまり便潜血陽性の場合に精密検査を受けないと、治せるがんが治らなくなるということです。そのため大腸がん検診で便潜血陽性となった場合は必ず精密検査を受けることがとても重要です。
画像診断
- (1) 注腸X線検査:バリウムと空気を肛門から注入しX線検査で大腸を映し出す検査です。大腸がんの部位診断、壁硬化像で深達度診断などが可能です。
- (2) 大腸内視鏡:肛門から内視鏡を挿入し大腸の内側(粘膜面)を直接観察する検査です。組織をとる生検検査が可能で確定診断には必要です、早期がんやポリープにたいしては内視鏡治療も可能です、超音波内視鏡では深達度診断が可能です。
- (3) その他の検査:腹部超音波、CT、MRIなどで周囲浸潤や転移の検索を行います。
大腸がんの広がり
大腸がんはできた場所でどんどん大きくなりつつ根が深くなります。根の深さを深達度といいます。深達度には浅い順に粘膜内癌(m癌)、粘膜下層浸潤癌(sm癌)、筋層浸潤癌(mp癌)、漿膜下層浸潤癌(ss癌)、漿膜浸潤癌(se癌)、他臓器浸潤癌(si癌)の6段階の分けられます。さらに大腸がんはこの深達度で早期癌と進行癌に分けられます。早期がんは6段階中の深達度が浅い粘膜癌(m癌)、粘膜下層浸潤癌(sm癌)を指し、進行癌は6段階中の深達度が筋肉より深い筋層浸潤癌(mp癌)、漿膜下層浸潤癌(ss癌)、漿膜浸潤癌(se癌)、他臓器浸潤癌(si癌)を指します。
また、できた場所とは別の場所に転移(飛び火)します。大腸がんの転移には主に4つのパターンがあります。
- (1) 血行性転移:血管内の入り込んだがん細胞が血液の流れにのって飛び火します。主に肝臓や肺、骨などに転移することが多いです。
- (2) リンパ行性転移:リンパ管の入り込んだがん細胞がリンパ液の流れにのって飛び火します。通常できた場所に一番近いリンパ節に転移し二番目に近いリンパ節、三番目に近いリンパ節と順を追って転移し最終的に全身に広がります。
- (3) 腹膜転移:大腸の内側にできたがんは徐々に根を深くし大腸の壁を突き破ります。このときおなかの中にがん細胞が種を播いたようにこぼれ、それぞれの細胞がしこりになる転移です。腹膜転移が起こるとおなかに腹水という水がたまります。
- (4) 直接浸潤:大腸の内側にできたがんは徐々に根を深くし大腸の壁を突き破りますが、この時に隣り合った内臓があるとその内臓にがんが食い込んでいきます。
大腸がんの進行度
大腸がんの広がりを分類したものが進行度(ステージ)です。
大腸がんの進行度は壁深達度、リンパ節転移、肝転移を含めた遠隔転移の有無により決められます。広がりが少ないものから進行度0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳの6段階に分けられます。
大腸がんの治療
- (1) 内視鏡的治療:基本的には早期癌に対する治療です。内視鏡で大腸の内側からがんを削り取る治療です。
- (2) 手術治療:内視鏡治療のできない早期癌や進行癌に対する治療です。 手術治療の基本は、がんができた部位の大腸を切除することと、切除する大腸を担当しているリンパ節を切除することです(リンパ節郭清))。 切除後は口側の腸管と肛門側の腸を吻合(縫い合わせ)します。
腹腔鏡手術について
最近では腹腔鏡などの低侵襲手術が積極的に行われています。 腹腔鏡手術では腹部に5~10mmの穴をあけ、腹腔内に炭酸ガスを注入(気腹)して腹腔内にできた空間で腹腔鏡(カメラ)を使い手術を行います。お腹の中では開腹手術と同じことを行います。通常の開腹手術と比べて傷が小さく、痛みも軽く術後の回復が早く入院期間も短いといった利点があります。一方で、手術には専門的な高い技術が必要で手術時間は開腹手術と比べて長い傾向があります。
手術の合併症について
大腸がん手術の代表的な合併症には多いものから創感染、腸閉塞、縫合不全があります。 創感染は傷が細菌により化膿することです。大腸がんの手術では約10%に起こります。 腸閉塞は腸が癒着や麻痺を起すことにより、腸内の腸液の通過が障害され腸液が渋滞することです。大腸がんの手術では約5%に起こります。縫合不全は吻合した腸がうまくつながらない状態のことです。結腸がんの手術では約1。5%に起こり、直腸がんの手術には約5%に起こります。
- (3) 化学療法(抗がん剤治療):術後補助化学療法は手術治療後の再発を減らす目的で行う治療で、進行度Ⅲ以上の手術治療後に行います。この場合は手術後6か月までなど期間を決めて行います。 手術で切除できない切除不能進行大腸癌に対する治療としても行われます。この場合は期間は決めず治療すべき大腸がんが存在する限り行います。
化学療法には副作用の可能性があり、患者さんのがんの状態と全身状態を考慮して行われます。 - (4) 放射線療法:補助放射線療法は手術治療後の再発を減らす目的で行う治療で、緩和的放射線療法は再発による疼痛軽減の目的で行われます。
- (5) 緩和治療:身体的緩和(疼痛・腸閉塞・尿路閉塞・出血などに対する緩和治療)や精神的緩和などを行います。
大腸がんの治療は前項で説明した進行度により決まってきます。進行度0~Ⅲの治療は内視鏡治療または手術治療が基本となります。早期癌には内視鏡治療が選択されます。内視鏡治療のできない早期癌(大きさ、分化度、深達度など)や進行癌には手術治療が選択されます。進行度Ⅳの治療は手術治療と化学療法、放射線治療を組み合わせて行われます。がんの広がりにより組み合わせを決めますが、手術で切除可能ながんは手術治療が第一となります。
大腸がんの予後
大腸がんは手術などの治療後5年間経過し再発がない場合にひと段落治ったと判断します。
大腸がんの予後の指標に5年生存率があります。大腸がんの5年生存率はすべての進行度をあわせても約70%と比較的治りやすいがんです。しかし5年生存率を進行度別にみると進行度が進むにつれて治りにくくなります。このことからも大腸がんは他のがん同様に早期発見と早期治療が最も重要になります。そのために大腸がん検診を積極的に受診し、症状がある場合は早めに医療機関を受診してください。
当院の大腸がん治療の特色
大腸がんに対して低侵襲手術である腹腔鏡下手術を積極的に行っております。腹腔鏡下手術は御高齢の患者さんや心臓病や腎臓病、糖尿病などの持病をお持ちの患者さんにもやさしい治療であり積極的に行っております。
また、直腸癌に関しては治癒率の向上を目的とした術前化学放射線治療と腹腔鏡手術を組み合わせた集学的治療を行っております。