ヘルニアはラテン語で「飛び出す」という意味で、紀元前の昔より患者さんがいらっしゃいます。日本では一般に”脱腸[だっちょう]”と呼ばれる良性の病気で、年齢を重ねていくうち、足のつけね(そけい部)の筋肉などの組織が弱くなり、腹膜と言う膜の袋に包まれた状態でお腹の中の臓器(腸など)が飛び出してくることによっておこります。
症状
立っているときにそけい部に膨らみをふれ、あおむけになって指で押さえると通常は引っ込む。
立仕事などでそけい部や腹部に重苦しい痛みや不快感を感じる。
膨らみが固くなり、激痛となり、指で押さえても引っ込まなくなる場合は陥頓[かんとん]という状態で、飛び出た臓器がヘルニアの穴で締め付けられて、血液の流れが悪くなり臓器が壊死することのある緊急事態です。
ヘルニアの分類
足の付け根の組織が弱くなって飛び出す穴の部分は決まっており、部位によって、外そけいヘルニア、内そけいヘルニア、大腿ヘルニアと区別をしています。
皮膚の上からはどの穴から飛び出しているかの区別は困難ですが、同時に2種類以上のヘルニアが片方の足の付け根から飛び出していることも、両方の足の付け根から飛び出していることもあります。
治療法
前述のとおり古くよりある病気ですが、現在のところ薬などで治ることはなく、手術以外の治療法はありません。
そけいヘルニアは普段は緊急性がありませんが、前述のように嵌頓すると臓器が壊死して生命にかかわる状態になる事もあるため、そうなる前に予防的な手術が推奨されます。
手術
ヘルニアが飛び出す部分は組織が弱くなっているので、弱い部分を糸で寄せるか、メッシュ(人工の網)を当てて補強する手術となります。
上記の補強方法の組み合わせで術式が異なります。
- 生体修復術(周辺の組織を縫い寄せる方法)
- 前方修復術(そけい部の皮膚を切開し、メッシュを組織の外側に敷く方法)
- 腹腔鏡下修復術(腹腔鏡でお腹の中からメッシュを組織の内側に敷く方法)
- ロボット支援手術(3.と手術方法は同じであるが、ロボットを用いて行う方法)
- は古典的な方法ですが、周辺の組織を糸で縫い寄せるだけなので、術後の強みが強く、再発率も高いことが分かり、現在ではメッシュを使えない時(組織が感染している場合、人工物は体にとっては異物であり、感染することがあるため)のみに行われており、②と③のようにメッシュを入れる手術が一般的です。
- はそけい部に約5 cmの傷を作り、組織の上からメッシュを置いて糸で固定する方法で、広く行われている方法です。
- は1~3か所の小さな傷(1mm~1 cm前後)から、腹腔鏡といわれるビデオカメラを使って、おなかの内側からヘルニアの穴を確かめて組織の内側にメッシュを充て、タッカー(時間がたつと溶けてなくなる画鋲のようなもの)で固定する方法で、行われている施設は限られています。また反対側も観察が可能ですので、術中の所見で反対側にもヘルニアがあれば同時に治療します。
- は3.と同様に腹腔鏡を使用しますが、3.で用いる器具と異なり、狭いお腹の中での操作がスムーズで、タッカーを使用しないメッシュを使用するため術後の疼痛が少ないようです。
当院の特長は選択肢が多いということです。そけい部を約5cm切開して行う2.の手術方法の他に、腹腔鏡を用いて小さな穴で行う3.の手術があります。腹腔鏡下手術は傷が小さく痛みが少ないので、術後の社会復帰が早いのが特長です。さらに保険診療外ではありますが4.の手術も行っております。当院では患者様お一人おひとりの生活様式や手術歴、病歴により最もよい手術方法をご提案します。
手術前後の経過
ヘルニアの診断のために検査を受けていただきます。
ヘルニアの診断が確定しましたら、術前検査を受け、手術日の予約をお取りします。
術前検査結果のお知らせをして、ご希望、これまでの手術歴、術前検査の結果を総合的に判断し、最もよい手術方法をご提案します。
手術日の前日に入院していただき、手術の翌日退院となります。
術後2~4週間は腹筋を使うような運動や、深くかがみこむような姿勢(和式トイレなど)を控えていただきます。
手術件数
※腹部ヘルニア:臍ヘルニア・大腿ヘルニア・腹壁瘢痕ヘルニア・閉鎖孔ヘルニア