治療法
- 大動脈弁尖再建(だいどうみゃくべん せんさいけん)
- 大動脈弁形成(だいどうみゃくべん けいせい)
対象となる患者さん
心臓弁膜症のうち、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症がこの手術の対象になります。心臓弁膜症のページへ
手術の概要
従来、大動脈弁弁膜症の治療は、人工弁に置換する手術しかありませんでした。しかし、人工弁に置換した場合、特に金属の仲間でできた機械弁の場合、脳梗塞などの原因となる血栓を予防するため、ワルファリンという血液をサラサラにする薬を一生服用しつづける必要があります。ワルファリンを服用していると、食事制限や、病院での検査、治療の制限があるなど、不便な点がでてきます。ウシやブタの生体材料でできた生体弁を選択した場合でも、特に60才代未満の方の場合には、人工弁が劣化する心配があります。また、人工弁が細菌感染する感染性心内膜炎のリスクが高くなります。
さらに人工弁には「縫いしろ」が必要なため、もともとの心臓出口のサイズ「弁口面積」はどうしても手術後に小さくなります。とくに小さな人工弁しか移植できない場合、術後に「大動脈弁狭窄症」の状態が残ってしまう可能性があります。これらの問題を解決するために、当院では自己心膜を用いた大動脈弁尖再建を行っています。機能しなくなった自己弁を切除し、特殊処理した自分の心膜(心臓を包んでいる丈夫な膜)で弁を再建します。心膜を使用した弁の修復技術は他の弁でも用いられており、その耐久性は長い歴史の中で評価されています。また切除した心膜はほかの材料で補填できるので問題ありません。この手術は人工弁のような「縫いしろ」を必要としないため、もともとの心臓出口のサイズそのままを維持することができ、狭窄となりません。またワルファリンなども必要ありません。また自分の弁を残したまま修復する「自己弁温存手術」や「自己弁形成術」も積極的に行っています。
弁尖再建術
黄色い円は弁輪と言い、血液の通り道となります。
再建術後も弁輪は狭くならないので、血液の通り道は正常なままとなります。
人工弁置換術
黄色い円は本来の弁輪です。
しかし人工弁の縫いしろのため、手術後の血液の通り道は赤色の円のように狭くなってしまいます。
血液の通り道が手術後も狭くなるので、人工弁に置換しても狭窄症の症状が残ってしまう場合があります。
手術のために行うこと
詳細な検査を行い、
- 患者さん本人の弁を残した手術ができるか
- 大動脈弁は弁尖再建が可能な形か
- 適切なサイズの人工弁が留置可能か
を検討したうえで、治療方針を提示させていただきます。
手術の対象となる患者さん
大動脈弁弁膜症の患者さんのうち、
- 機械弁を移植し、ワルファリンを一生服用することを避けたい方。
- 21㎜未満の人工弁しか入らない見込みの方(他院で手術を予定している方は、いちど担当外科医に確認してみてください)
が対象となります。
使用する弁
特殊処理した患者さんご自身の心膜を使用しますので、人工弁は使用しません。
当院の治療実績
術者は当院だけでなく、国内外の病院でもこの術式を行っており、多数の経験があります。その成績について2016年以降、毎年、全国学会で報告をしています。